何者でもない者の日記

旧タイトルは「法学徒って名乗りたい」。

『ミッドサマー』に至るまで

 ようやく映画『ミッドサマー』を鑑賞した。準備に一月くらいかけたので、やっと観ることができてとても嬉しい。内容も準備した甲斐があって満足した。

 

 映画を一本観るだけなのに何を準備することがあるかと思うかもしれない。端的に言えば「グロ耐性をつける」ということだ。

 

 私はもともとホラー映画が苦手で、怖いのはもちろん、血とか怪我とか痛みとかが苦手だ。普段の生活の中でも、電車に轢かれる妄想や、暴走した車に潰される妄想など、自らの悲惨な死に恐怖するほどそういう類のものが嫌いである。

 

 映画『ミッドサマー』はグロテスクな描写が露骨に描かれているという前評判は知っていた。なら観なきゃいいと思われると思う。自分も普通なら観なかっただろう。ではなぜ興味を持ったか。答えは単純。「skkbはたぶん観ないほうがいいと思うよ」と言われたからである。

 天の邪鬼なので「しない方がいい」と言われるとしたくなる。押すなと言われたボタンは押したくなる。不味いと言われたら食べたくなる。観るなと言われたら観たくなるのが人間(少なくとも私)の心情である。というわけで、苦手なグロを克服する試みが始まった。以下ネタバレ・説明責任を果たしていない独り言です。あしからず。

 

 

1.『冷たい熱帯魚

 邦画でグロと言ったらこれだろう(本当か?)。実際エロ・グロ・ナンセンスの塊だった。実際にあった愛犬家連続殺人事件を元にした映画で、熱帯魚店を営む主人公・社本が同業で営業にカリスマ的な腕を持つ村田と懇意になるが、村田は実は都合の悪い人間を殺す連続殺人犯であり、社本も殺人を手伝わされるようになる、という話。

 村田、ガチサイコパス。自分の利益のためにどんな悪事でも平気な顔でこなす。証拠隠滅も慣れたもの。社本を演じる吹越満さんの演技が凄まじかった。初めて死体の解体を見た時の恐怖、体の震えがすごい。尋常じゃなくて怖い。村田(でんでん)もすごい。説得力がすごい。ヒトラーの演説を思い出した。でかい声でおおげさに過激なことを自信満々に述べると人間信じちゃうんだなー。信じなくとも有無を言わせぬ恐ろしさがある。見た目は優しいおじさんなのに。

 グロは、とてもグロだった。ちらっと言ったが、殺した人間をバラバラに解体するシーンがある。画面真っ赤。肉、内臓、骨。グロ練習用の最初に観る物じゃないと今になって思う。

 エロも同じくらいの危険度だった。普通に行為に及んでいるので気まずくなりたくない相手と観るのはおすすめしません。

 もう一回観たいとは思わないけど、恐ろしい人間もいるもんだな、気をつけようという気持ちになれる。洗脳怖い。ヤクザ怖い。あと吹っ切れた人間も怖い。

 

2.サプライズ

 なんでこれを観たのか理由は定かではない。アマプラ観てたらおすすめに出てきて、ちょうどいいかもと思って観てみた。家族がめっちゃ殺される映画(雑)。

 主人公が強くて敵を返り討ちにしててかっこよかった。最初はどこから敵が出てくるかビクビクしながら観てたんだけど、途中からポンコツぶりが発揮されるので観るのが楽になった。

 殺される家族は金持ちで世間からちょっとずれた思考をしてるなと感じた。危機感薄かったり、やばい状況でも口論してたり。だからやられちゃう。金持ちの息子たちもクズばっかりで胸糞悪い感じ。そいつらがポコポコ死んでいくのでスカッとする人もいるかもしれない。ストーリー的にはかるーく観られる感じの映画。グロとびっくりが大丈夫なら。

 グロは、グロってか痛いやつ。観ながらあだだだだって言ってた。リアルな痛みが多い。殺し方が多様なんだけど、日常の道具を使った力技って感じで痛みが想像できてしまうから厳しかった。足に釘が刺さるとか。

 力こそパワーって感じの映画だった。自己を守れるくらいの知識・経験はあると便利だなと思った。とりあえず頭を守る。

 

3.キャビン

 サプライズ観たってTwitterで言ったら🐡がおすすめしてくれた。ホラー映画の世界を裏側から操って計画通りに人が死ぬよう導く謎の組織と、ターゲットにされた学生の戦い。

 こちらも主人公の女の子が頑張ってる。まあ実は、ターゲット集団の処女は頑張って苦しんだら生き残ってもいいということ自体組織に決められたことなのであるが……。結局女の子が頑張るのも計画通りということだ。あと謎の組織のおじさん二人がいい味出してて好きだった。

 恐怖に溢れるホラー世界と、それを見て賭けやパーティーをしてる謎組織が交互に描かれ、なんともシュールな話だった。後半で組織に乗り込むところは前半と全く異なるテイストで、それはそれで面白かった。生き残った二人がやむなく相手を殺そうとし、人間不信になりながらもお互いを許し合うところは美しいなと思った。

 グロは、結構グロだったと思う。でも敵がゾンビという人外だったので現実感はなく落ち着いて観られた。最後の大量殺戮シーンはグロいを通り越してもう笑ってしまうくらいだった。とりあえず真っ赤。

 ホラー映画の特徴を上手く抽出してメタ的に仕上げており、面白いストーリーだった。ホラー映画好きならもっと楽しめるんじゃないかな。教訓は、夏休みに友達のいとこの別荘にホイホイ行かない。地下室にホイホイ入らない。人類はそろそろ滅びた方がいいかもしれない。

 

4.グリーン・インフェルノ

 グロ映画で調べたらだいたい出てくる。意識高い系集団が過激な先住民の保護キャンペーンをして、その帰りに飛行機が墜落、当該先住民に捕まるが、彼らは食人族だった!という話。またまた主人公の女の子が頑張る。本当にそういう構図が多いんだなと思った。キャビンはかなり的を射てるんだな。

 グロは、とてもグロだった。冷たい熱帯魚と似てる。バラバラにされちゃう。もうこの頃にはだいぶ慣れてきてあまりきついと感じなかった。

 グロい映画だったんだけど、それより考えることが多い映画だった。主人公が参加した意識高い集団は、ジャングル開発を止めるため現地に赴き、SNSに動画を流し抗議活動をする。こういうのって立場の弱い人達を「守ってあげる」みたいな、お節介な上から目線になってしまう恐れがあると思ってる。恵まれた環境から、(自分たちのものさしでは)恵まれていない人を助けるのは気分がいいだろうけど、結局その人達のためになることをしてるのか?ただ優越感に浸りたいだけじゃない?って思った。

 主人公は感心なことに森林破壊や原住民の生活の破壊に対して心からの問題意識を持ち、開発を止め原住民を守りたいと思っている。しかしリーダーの目的は、開発計画を停止させることで同業他社から金をもらうこと。その目的を隠し、意識高い学生やあまり考えてない学生を騙して自らの任務を遂行する。まさに外道。しかしこのリーダー、かなりやり手で隙がない。こいつもサイコパスだった。演説が上手くて自信に溢れて他者を従わせてしまう。結局こういうやつがいい目を見るんだよなあ。国連弁護士の娘で育ちが良くて人を疑うということを知らなさそうな主人公もまんまと利用されてしまう。金持ちホラー映画で苦しみがち。

 文化の違いをどう受け止めるべきか、というのが主題であると思う。文化に貴賤はない。たとえ受け入れがたい文化であっても、それを大事にしている人達がいるのだから否定すべきではない。でも、お互いが違う文化を持っているなら、自分の価値観だけを押し付けるんじゃなくて、お互い相手の文化を知ろうとする努力が必要ですよね。そうしないと他所から入ってきた人を食べちゃって怖がらせてしまうかもしれない。これは文化に限らず個人の考えにも当てはまると思います。歩み寄り大事。

 最後まで主人公は自分の目的を忘れない人ですごいと思った。ものすごく怖い思いをしたのに、それでも彼らを守ろうとするのは本当にすごい。クズが死なないのは個人的にいいなと思った。世の中理不尽なこともある。けど、真面目に信念を持ってやれば報われることもある。主人公みたいに。

 

5.へレディタリー 継承

 これは今までの総仕上げというより、ミッドサマーの予習として、同じ監督の映画観とこうと思ったやつ。一言でいうとめっちゃ怖かった。今までのはホラーってかスプラッタ映画だったけど、これはホラー。怖い。端的に言うと、先祖に呪われた家族に悲劇が起こり崩壊していく話。

 とにかく不穏。ずっと不穏。なんか画面が暗い。家が怖い。主人公が作ってるミニチュアもなんか怖い。人も怖い。じわじわ精神が削られていくのを感じた。ずっと怖さを溜めて溜めて最後にドッカーンと爆発した。ALSOKシーンも普通に怖かった。怖いの嫌いなんだよ。なんで観たんだろう。

 グロは、まあ結構グロいかなって感じ。グロ練習初回だと厳しいと思う。グロよりホラー要素が怖かった。暗闇とか。異常な動きとか。

 ストーリーは上手いこと仕組んであって面白かった。最後主人公がカルト側になってしまった理由はよくわからなかったけど。学んだことは車から顔を出してはいけないということ。

 考えさせられるってよりは物語に引き込まれる、上手い話って感じ。

 

番外編 ブルー・マインド

 アマプラのおすすめに出てきて面白そうだと思って観た。ジャンルはホラーだったけど、あらすじからホラーじゃなさそうで、実際ホラーではなかったと思う。

 主人公は思春期真っ只中で、大人になりたい願望が芽生える頃。クラスのイケてる集団に入りたがってタバコをふかしてみたり、万引してみたり、薬をやったり。そんな中体に変化が訪れる。生理が始まると同時に、脚から魚のように鱗が生えてくる。最終的に人魚になって海に還る。という話。

 人魚になるというのは、女性の体がどんどん変わっていくのを表現したんだと思う。生理になったり体つきが変わったり、その変化を受け入れられず怖く思う気持ちが上手く表されていた。ワルに憧れて背伸びする気持ちとか、ほんとに上手いなと思った。

 あと不良少女との関係もよかった。最初は馬鹿にされて相手にもされなかったのに、だんだん心通じていく。ふたりとも家族に問題を抱えていると分かり、距離が縮まる。自分を大切にしない主人公を不良少女が止めようとする場面は、不良少女にとって主人公が大事な存在になったんだと心が熱くなった。

 主人公はそれまでの世界に馴染めなかった。それは自分の本当の居場所じゃなかったから。陸での不器用な姿から一変、優雅に海を泳ぐ姿は感動した。私はどんな場所でも自分の心次第でどうにでも生きていける主義者だが、自分の居場所を見つけることって大切なんだと感じた。人魚となった主人公は海で生きていけるんだろうか……。

 

 

 以上番外編含め6本の映画を観て、満を持して『ミッドサマー』を観ることにした。最寄りの上映してる映画館がディレクターズカット版を上映していたのでそれを観た。

 

 

本題 ミッドサマー

 こんだけいろいろ観て準備した甲斐はある面白い映画だった。懸念していたグロも修行を積んだことで大したダメージもなく観ることができた。

 内容は簡単に言うと、家族にトラウマを抱えたメンヘラ主人公が、破局寸前彼氏とその仲間と、伝統的文化が残る共同体の祭りに遊びに行って大変な目に遭うという話。

 映像はきれいだった。絵は不気味。音楽も明るさを装ってるけど不気味さを隠しきれていない。ラリってる時ぐにゃぐにゃして気持ち悪かった。上下ひっくり返るのもだいぶ気持ち悪い。三半規管終わってる人には厳しい場面があった。

 一回しか観ていないので謎もある。最後の死体は誰が誰だかよくわからんかった。あと、あの人達みんななんかしらやらかしたから上手いこと殺されたけど、もしなんも問題を起こさなかったらどうなっていたんだろう。やっぱり殺されてたのかな。ダニーがメイクイーンになるのは仕組まれていたんだろうか。クリスチャンを子作りに利用するのがメインで、メイクイーンの儀式はダニーの気をクリスチャンから逸らすためなんじゃないか、そのためにメイクイーンにしたんじゃないか、あの結果も彼らの思惑通りなんじゃないかと思った。あと、ペレもイングマールも説明不足すぎる。村に着く前に隠しておくのはいいけど、着いたら大事なことは話しておけよ!と思った。

 これもグリーン・インフェルノと同じで、他所の文化を受け入れられるかという話だと思った。野蛮に見えてもそれを大事にしてる人がいるんだよね。でもだからといって、人を殺してはいけないという価値観を持った他所の人をホイホイ殺していいことにはならぬ。歩み寄り大事。あと、意図的に近親相姦で障害を持った人を生み出すというタブーについて。このタブーというのもこちらの価値観のタブーでしかない。彼らにとっては曇りない神聖な存在である。既存の倫理観をぶっ壊すことで、自分の倫理観を疑うきっかけを与える映画だと感じた。

 監督曰くこれは恋愛映画らしい。主人公は、自分を分かってくれない彼氏は殺して、感情を共有してくれる「家族」と生きることを選んだ。失恋の復讐を最も残酷な方法で遂げる。絶対アリ・アスターと付き合いたくない。てかいくらひどい扱いをされたとしても4年付き合った彼氏を殺すか??この決定を下す時点で村の慣習に洗脳されてしまっているんだな。

 感情の共有について。感情の共有って難しいじゃん。人と全く同じ感情って絶対に理解できないと思う。それを分かった気になっている、上辺だけの共有に過ぎないのにそれを最も正しいこととしているというのが気持ち悪いなと思った。でも、閉じられた空間で一つの信仰を生まれたときから刷り込まれたら疑うことはできないよなと思う。

 主人公は精神的に不安定。他人から理不尽に扱われても、自分が悪いと思って感情を抑圧してしまう。でも本心からそう思っていないのが相手に伝わって、被害者ぶってると言われる。そんな主人公が自分の感情をあけっぴろげに晒せたのがこの村の女達だった。自分の痛みを分かってくれるような素振りを見せてくれ、安心感を覚えたのではないかと思う。しかしその同調は本物ではない。本物ではないものでも本物であるかのように信じさせてしまうのが宗教の怖いところだと思う。

 主人公は、妹と両親の心中がトラウマとなっている。そんな彼女に自殺を見せるのは大変酷だと思うが、逆にそれが心の癒やしにつながっていく。外の世界では自殺は悪である。しかしホルガ村では老人の自殺が肯定的に捉えられている。これは自殺=悪という固まった思考から主人公を解放し、トラウマから抜け出す一歩となったのではないかと思った。頭をかち割られる様を放心して見ている顔からそんなことを感じた。

 やっぱりへレディタリーと同じで上手く作られた映画だと思った。人に寛大でありたい。

 

 

 こんな感じで普段見ない系統の映画を立て続けに観たわけだが、なかなか収穫が多かった。頭パカーン首チョンパより手のひらを切られるとか足の指の間を切るとかそういう地味にありえる傷のが見てて痛い。怖いのはやっぱり苦手。ホラー映画は怖いだけじゃなくてメッセージ性がある。いくら悪者でも殺すのはかわいそう。総括としては以上である。

 なかなか面白かったので、今後もホラーだからと毛嫌いせず、気になるのは観てみようと思った。

 

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