何者でもない者の日記

旧タイトルは「法学徒って名乗りたい」。

別れ

以下、就活中の苦悩記録です。

 

 

 

 

 第一志望から内々定が出て、他社の内々定・選考を辞退しなければならなかった。それが本当に辛かったので、記録を付けておく。

 

 志望業界は絞っており、その中でも大手の4社の選考を受けていた。A社はサイレントお祈り、B社は内々定、C社は翌週最終面談という状況で第一志望(D社)の内々定が出た。

 そもそもなぜD社が良かったかというと、詳しくは言えないが、私は最前線で働きたいと思っていて、D社ならそれが叶えられるからだった。社風が合いそうというのも理由の一つだ。OBが面談でたくさん時間を割いてくれたし、実際いい人が多そうだとも思っている。この「最前線で働く」というのと「社風」の2つを満たす会社はここだけだったので、文句なしの第一志望だった。

 しかし、私はC社のリクルーターが大好きだった。その人に選考辞退の電話をするのが本当に申し訳なくて、なかなかダイヤルを押す手が動かなかった。

 

 リクルーター制度について若干説明をしておく。リクルーターとは、会社にいる大学のOBである。エントリーした学生との面談を通して情報を人事に伝えるなど人事の手先かと思いきや、就職活動や面接のアドバイス、会社の内情を教えてくれるなど、学生の応援もしてくれる。人事と学生の中間で暗躍している人々である。エントリーするとリクルーター側から接触があり、面談に呼び出され、なんでも聞いてねと言われつつ、こちらの志望度や人柄を見定められるという怖いシステムである。

 

 D社のリクルーター制度は、ひたすら面談が多く、こちらが頼まずともポコポコ面談が入れられていった。ES添削や面接練習も複数回やってくれて、かなり応援してくれた。大学OBも多いようで数の力を感じた。熱い人が多く、部活の先輩のような人たちだった。私はこの人達が好きだったし、多大なる世話をかけたので、会社に入ったら恩に報いたいと思っている。

 C社は少し勝手が違っていて、3月ごろ面談を2回行い、その後同じ大学の学生の中で人事面談に上げる人を決めるための面談があった。その面談に通った後はリクルーターは完全に学生の応援側につくから頑張ってねと言われていた。通ってからもこちらが頼めば面接練習や面談をしてくれた。

 組織的にこちらを構って囲い込んでくるD社と、静かにサポートしてくれるC社。それぞれの社風と通ずるところがあり、事業内容は同じでもここまで違うものかと面白かった。熱血漢で泥臭いD社も好きだったが、同じくらい静かで真面目で誠実なC社の雰囲気も好きだった。

 

 私が好きだったC社のリクルーターの話をする。Xさんとしておく。Xさんと初めて会ったのは3月上旬、2回目のリクルーター面談の時だった。当時はそんなに志望度も高くなく、2回目やるから来てねと言われたので行った、というくらいだった。

 第一印象は厳しそうな人であった。全然笑わないし、初っ端から事務連絡だし、私のやりたいこととC社は合わないかもしれないと開始5分で言ってきたから、残りの1時間弱やっていけるか不安だった。しかし話してるうちに徐々に慣れてきて、実はいい人なんじゃないかと思い始めた。私が聞いたことはいいことも悪いことも話してくれるし、私の人格をちゃんと尊重して話してくれるし、なによりしっかりした社会人という感じがした。私が留年していることを話すと、じゃあ一緒ですね、私も一浪一留ですよ、と初めて笑ってくれたのを覚えている。結局1時間のはずが30分ほどオーバーしていろいろ教えてくれた。

 

 その後、リクルーター最終面談があると言われ、リクルーターのボスとXさんと私の3人で面談した。その時私は、志望度で落とされるかもしれないというXさんの助言に耳を貸さず、他社と迷っていると正直に言ってしまった。絶対落ちるだろうと思って、帰りがけに「今までお世話になりました」と言うと、また笑われた。その日の夕方、Xさんから電話がかかって来て、人事部への推薦が決まったと伝えられた。その時から完全に私の味方になってくれた。

 

 私の味方であるのだが、C社に絶対に入れようというのではなく、私が本当に納得できる会社を選んでほしいと言ってくれた。いろんな人に話を聞いて、私に合う会社を選んでほしい、そのために必要なことがあればなんでもやるよという風に。なんなら今までの仕事のツテを辿って他社の人でも探してきてあげるとまで言ってくれた。会社に入れるためではなく、本当に私の人生を考えてくれている人だった。

 その後も面接練習や、OBではない法学部の社員との面談を設定してくれたり、たまに電話をかけてきたり、いろいろ気にかけてくれた。

 

 何が好きだったかと言うと、真面目な雰囲気、社会人としてこうありたい、しっかりした人になりたいという私の理想にぴったりの人だった。好きというか、憧れ、尊敬できる人だった。経営陣と近い距離で仕事をし、頭が切れると一目置かれるような人なんだろうなと推察した。必要以上にヘラヘラしないところもかっこよかった。他社含め多くの人と会ったが、この人と一緒に仕事がしたいと一番思う人だった。

 面接練習くらいから、私はC社が第一志望ですと言うようになった。生存戦略として嘘でも言えるようにならないといけないと思ったから。真面目な雰囲気に惹かれたため、御社が第一志望です、と。しかし、心の中ではやはりD社が第一志望だった。それはXさんには確実に見抜かれていたと思う。だから居心地が悪かった。尊敬する人に自分が嘘を吐いていることがバレるというのは私にとってだいぶ苦痛だった。それでも私のことを応援してくれていて、なおさら申し訳なかった。

 人事の一次面談の後電話をくれた。まだ結果はわからないけど、全然心配してない。これからも業界研究を続けてください。何か困ったことがあれば連絡してね。いつもと変わらず。一次が通った時にはメールをくれた。おめでとう。人事部の評価はこうでした。最終に向けて頑張ってね。いつものように難しい漢字とことわざを用いた堅い文章だった。

 堅い文章を送ってくる人だったが、一回(笑)を使ってきたことがあって、あなた…笑うんですか…?と思ったことがあった。それはちょっと面白かったし、そこら辺からこちらも安心して話せるようになってきた。

 

 D社に内々定が決まって、各社選考やら内々定やらを辞退しないといけなくなった。C社は最終面談が残ってたから、それを受けてから決めてもよかったんだけど、心はやっぱりD社に決まっていたから、辞退するなら早いほうがよかろうと、電話することにした。でも本当に、今までかけてくれた時間と、その人との縁が切れる寂しさとで、1時間くらい動けなかった。でもやっぱり、早く連絡して断って今までの御礼を言うのが筋だろうと思って、えいっと電話をかけた。私から電話をかけるのは初めてだった。

 

 電話に出た声はいつもより明るく感じた。私は昨日D社から内々定をもらって入社を決めたと話した。すると、最初の声のトーンからそうだろうなと思いました、と言われた。そこでもう我慢できなくてボロボロ泣いた。悪いことをして謝りに行ったら逆に慰められて泣くみたいな、相手の優しさに安心しつつ、申し訳無さがパンクして涙となって溢れてくる感じ。いっそのことブチ切れて罵倒してくれた方が楽だった。涙は止まらなかったが泣いてるのがバレたくなくて頑張って声を抑えた。鼻声だったからバレたかもしれない。

 一応理由を教えてもらえますか、と聞かれ、やはり私は最前線で働きたかったと言った。C社は経営方針が中央集権型で、ちょこっと現場に出たら後は内勤ということが多い。それは私のやりたいこととは合わなかった。この話は最初からしており、向こうも知っていた。そう話すと、自分はC社のリクルーターだけど、その判断は正しいと思いますと言ってくれた。あぁ、やっぱりこの人は全部分かってて、たぶんD社とC社ならD社を取ると知っていて、それでも私のことを応援してくれて、私の選択を後押ししてくれるんだなと、感謝と申し訳無さでさらに泣いた。

 C社を受けていた同じ大学の学生の中で他にもD社に行くと連絡してきた人がいたらしく、だから電話に出る声がいつもより明るく感じたのかと思った。たぶん私から電話がかかってきた時に全て察して、私が話しやすいように努めて明るくしようとしてくれたんだと思う。今までお疲れ様、おめでとうと祝ってくれ、これから大変だろうけど頑張ってね、もし就職活動以外でも困ったことがあればいつでも連絡してねと言ってくれた。

 2回目の今までお世話になりましたの挨拶が、このような形で訪れるとは思っていなかった。選考に落ちて言うことになると思ってた。それはそれで辛いだろうけど、結局こちらが選ばなかったという、私の意思決定によってXさんを裏切ることになってしまったのがとても辛かった。同業だからどこかで会ったらよろしくお願いします、お身体にお気をつけて、と言って電話を終えた。

 

 電話中ずっと泣いてたんだけど、電話が終わってからも、今後なにかの奇跡が起きないと関わる機会がないというのが辛くて1時間くらい泣いてた。内定辞退が別れ話に聞こえるというのは本当にそうなんだろうと思う。私も今この文章を書いてる時にこれは別れ話なのか?と思っている。

 3ヶ月くらい、自分の内面を晒して、定期的に連絡をとって、何かを応援してもらうというのは、それはもう就職活動を超えた人間と人間の関わりだろう。でも就職活動のための関係だから、それが終わればその縁も切れてしまう。もっといろんな話をしたかったし、いろいろ教えてほしかったし、一緒に仕事をしたかった。Xさんにとっては私は数多くの学生の一人かもしれないけど、私にとってはとても大きな存在だった。たぶん街でC社の看板を見つけるたびにXさんのことを思い出すのだろう。

 

 就活は割と舐めてかかっていたというか、そんな一瞬の面接でなにがわかるか、運ゲーだろと思っていた。だから自分が就活でここまで心を痛めるとは思っていなかった。でも、今の所やりたい仕事、関わりたい業界が明確に決まってそれに向けて頑張れた、そして尊敬する社会人に出会えたというのはなかなか幸運だったのではないかと思っている。面接の準備とかすごい面倒くさかったけど。きっといい会社に入れたんだと思うから、Xさんにいつか会った時に、こいつ頑張ってるなと思われるように働きたいと思っている。

 

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