何者でもない者の日記

旧タイトルは「法学徒って名乗りたい」。

信頼と期待について

 「信頼」と「期待」は、他者になにか望みをかけるという意味では似ている。だが、両者には決定的な違いがあると思った。

 

 まず、例によって辞書的な意味を確認する。

 

・信頼 信じてたよりにすること。信用して任せること。

・期待 あてにして待ち受けること。心待ちにすること。

 出典:『国語辞典(改訂新版)』(1989)旺文社

 

 信頼には信じるという心の動きがある。また、信頼は多くの場合人に対してするものだ。人を信じてたよりにし、任せることが信頼である。

  一方、期待の定義には信じるという文言は含まれていない。ただ何かを待つだけ。これが期待である。

 

 普段どういう場面でこの二語を使用するだろうか。まず信頼については、「あなたのことは信頼しているので、この仕事を任せられる。」という場面を想定する。この時、信頼する対象は「あなた」であり、「あなた」の能力自体を信じて仕事を任せたいという心情である。直接的に仕事の成果については触れられていない。その人自身の性質を信じて、結果の良し悪しはひとまず棚に上げ、なにかを任せる。任せることができる。これが信頼である。

 次に期待についてである。こちらは、「結果は期待はずれだった。」という場面を考える。この時、期待する対象は「結果」である。人ではなく、なにか物事が起こるのを心待ちにすること。これが期待である。望ましい結果が起こるか起こらないかで、期待通りか期待はずれかが決まる。ここに、人の性質は関係ない。望んだ結果が出るなら、それを行うのは誰でもいい。つまり大事なのは、期待した側の心が満足すること。自分の望みが叶うこと。それが期待なのである。

 

 なぜこんなことを考えたのかというと、期待されることに反発心を覚えたからである。他人に期待して、期待が裏切られたからといって失望する。これは人間みんなやることだと思う。しかし、その期待は真に自分勝手な押し付けであり、相手がそれをしなければいけない義務はない。他人に期待するという行為は、言わば他人を道具にして自分の希望を叶えようとしているのだ。それに沿わなかった時、自分の思い通りにならなかったと失望されても困る、というのが正直なところである。私は期待されると応えたいと思うタイプであるが、そうすると他人に自分を縛られることになる。それが嫌だなと思って、最近は期待されても知らんと思うことにしている。

 いや、そもそも期待されているのか疑問に思ってきた。他人からの期待というのは、自分自身で作り上げた虚構なのではないか?自分の理想があって、それに向かう時に口実として「他人に期待されている」という状況を利用するため、期待されていると思い込んでいるだけなのでは?あぁ、情けない。結局自分も他人を利用しているだけなのか。

 

 話を戻して。期待されるのは嫌なのだが、信頼への抵抗感はない。信頼されるということは自分自身への信用である。結果ではなく自分の行動、思想、性質そのものへの信用。相手による私という人間の肯定。結果がどうであれ、自分を貫けばよいという安心感。そのようなものが信頼には含まれていると感じる。自分勝手な理想の押し付けではなく、そこに相手がちゃんと存在していて、その相手を見ている。だから信頼されることはあまり不快に感じないのではないかと思う。

 しかし、信頼にしても、自分が相手のイメージを勝手に作り上げ、それを信じているだけなのかもしれない。それでは期待と同じであろう。相手が優しい人だと思って信頼していたら、実はめちゃくちゃ怒りっぽかったという場合、それは信頼の基盤が崩れることになるし、相手からしたら勝手に優しいと思われて困るといった所だ。ただ、信頼されるということは、その前に信頼関係を構築するようなやりとりがあることが普通であり、自身の全く持ち合わせていない性質によって信頼されるということは考えにくい。逆に、信頼されるほどの関係があったとして、それを覆すようなことをした場合、裏切られたと思われても甘んじて受け入れるべきではないだろうか。信頼は人間関係から生まれるが、期待は個人から生まれるものである。その点で、独りよがりな期待と比べたら、信頼は自分にも端があるといえ、自分にも信頼に応える義務が生まれるのではないだろうか。

 

 私は期待はできるだけしないタイプである。期待したらそれが叶わなかった時辛いから。だから、望みは自分で叶えたい。叶うように行動したい。信頼はしてるかなぁ。あんまり意識したことはなかったけど、周りの人を思い浮かべると、割と信頼してる人はいるような気はする。

 

 上で書いたことについては、完全に私の頭の中で考えたことなんだけど、他の人も同じように思ってるかはわからないですよね。こないだ映画の「カイジ」を観てて、「俺を蛇だと思ったならお前が蛇なんだ」みたいなセリフが出てきて、どうしても人間自分の考えを基準にして相手も同じように考えているだろうと思いがちなんだけど、実際そうではないことも多いよなと思った。人それぞれ考え方は違うと常に肝に銘じておかないといけない。

 天気が悪いとついつい沈んだことを考えてしまう。雪降ってほしい。

 

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